おもてなしの底流にある「気づき」

You are here:

卓越したサービスの源

おもてなしの世界において、真に価値あるサービスを生み出す組織文化とは何か。

その答えの一つが、意外にもシンプルな「感謝」の表現にあることを、帝国ホテルでの経験から共有させていただきたいと思います。

感謝の表現がもたらす組織変革

人材育成部門での管理職時代の印象的な出来事。

新任のスタッフから業務完了の報告を受けた際、自然な感謝の言葉を伝えたところ、
「これまでのキャリアで、職場でここまで『ありがとう』と言われた経験がありません」
という率直な感想が返ってきたのです。

この何気ない一言が、私たちの部署が無意識のうちに実践していた重要な組織文化を浮き彫りにしてくれました。

他部署では「ありがとう」という感謝の言葉が交わされることが極めて少ないという事実。

これは、多くの組織が陥りやすい「当たり前」という認識の罠を示唆しています。

ラグジュアリーブランドにおいては、1つ1つの業務遂行が完璧であることを基準にしなければならないことがあります。

例えば、客室のベッドや浴室に髪の毛が1本でも落ちていたら、そのルームメイクは0点なのです。

しかし、その基準を維持している個々の努力を「当たり前」と捉えることは、実は、組織の成長と革新を阻害する重大なリスクとなり得るのです。

その理由は、組織心理学の観点から主に三つ挙げられます。

  1. 内発的動機づけの低下
    – 努力が「当たり前」として認識されると、スタッフの自己効力感が徐々に失われていきます。
    – 研究によれば、適切な承認を受けない環境では、創造性や自発的な改善提案が著しく減少するとされています。
  2. 細部への意識の鈍化
    – 「当たり前」という認識は、細部への注意力を低下させます。
    – おもてなしの本質である細やかな気配りや、さらなる品質向上への意識が失われかねません。
  3. 組織学習の機会損失
    – 「当たり前」とされる行動の背景にある工夫や知見が、暗黙知として埋もれてしまう可能性があります。
    – 結果として、優れた実践の組織的な共有や発展が妨げられます。

感謝の文化を築く実践的アプローチ

では、いかにして効果的な感謝の文化を構築していくべきでしょうか。

以下の3つのポイントを意識した実践をお勧めいたします。

  1. 即時の承認
    – どんなに小さな貢献でも、まず「ありがとう」で受け止める。
    – 評価や改善点の指摘は、必ず感謝を示した後に行う。
  2. 感謝の具体化
    – 何に対して感謝しているのかを明確に伝える。
    – その行動がチームや顧客にもたらした価値を具体的に説明する。
  3. 文化の醸成
    – 管理職自らが率先して感謝を表現する。
    – 部署を超えた感謝の連鎖を創出する。

卓越したサービスは、細部への「気づき」から生まれます。

その気づきを育む最も効果的な方法の一つが、日常的な感謝の表現なのです。

振り返りのポイント

  • 部下の細やかな努力を「当然」と捉えていませんか?
  • 具体的な感謝の言葉を、適切なタイミングで伝えていますか?
  • 感謝の表現が、組織文化として定着していますか?

ハイレベルなおもてなしを追求する組織として、明日から実践できる具体的なアクションが「ありがとう」の声掛けです。

この小さな変化が、より洗練された組織文化を築く第一歩となるはずです。